子宮内膜症とは?
4.子宮内膜症の医療、診断と治療
1)子宮内膜症の医療医療と医学は違うものであるということを、まず知っておいて下さい。 医療というのは、人間が人間に行うとても人為的なことですから、どんな医療者が、どんな病院のどんなチームで、どう行うかで、驚くほどの幅が生じています。医療の情報開示が叫ばれて久しいですが、私たちに最も必要な情報は「医療の質」です。 JEMAでは1994年の設立以来、日本の子宮内膜症医療の現実という情報を、可能な限りに収集することが重要課題だと考えて実行しています。約4,700軒、12,000人の産婦人科医のすべての情報を得るのは実際は不可能ですが、山ほどあるマイナス情報の中で、プラス情報は必然的に浮かんできます。 医療の最大目標は病気を予防することですが、いったん病気が始まってしまった場合、医療行為の基本は、「最少のリスクで最大の効果をあげること」に設定されます。日進月歩で進歩している医療者もたくさんいますから、子宮内膜症の女性たちも、このさいもっと自立した患者になりましょう(高圧的な態度ではないのでお間違いなく)。医療とは、「患者と医療者が共同作業としてとりくむことにより、最大の効果を発揮するシステム」なのです。できるだけ効果的な医療になるよう、両者が工夫することはたくさんあります。患者と医療者の力関係のバランスが偏っているようなところには、効果的な医療など生まれるはずがありません。 さて、子宮内膜症は、現在の医学ではどんな治療をしても閉経までは完全に治ることはない、「再発性の慢性疼痛疾患」です。そのため、子宮内膜症医療の目標は、「それぞれの女性を苦しめているそれぞれの症状をできるだけ取っていくこと」になり、人によってはそれが痛みであったり、不妊であったりするわけです。医療の中では、開発の遅れた分野であることは否めません。それは、女性だけにしか起こらない、それで死ぬことはない病気だからでしょう。 その子宮内膜症が、ここ10年ほどで、産婦人科医療において注目されるようになってきた背景のキーワードには、「治療薬、不妊医療、腹腔鏡」があります。 子宮内膜症の保険適応治療薬が1983年から発売され始め、あまい診断で薬を処方することが全国各地で急増しました。子宮内膜症医療のことを、薬先導で進んできた医療だと言う関係者もいるほどです。 また、不妊医療が盛んになってきた中で、不妊の女性の半分ほどに子宮内膜症があると発見されることが増え、不妊医療の専門医たちが研究と臨床を進めるようになりました。 また、産婦人科にも腹腔鏡が導入され、お腹の中をのぞいていろいろな病気や状態を診断しているうちに、子宮内膜症によく出会うようになり、腹腔鏡をしながら治療もする腹腔鏡下手術が94年に保険適応となって、手術が増えてきました。 さて、子宮内膜症の診断と治療は、その医学とは異なる次元で、日本の医療現場で実に様々な幅をもって展開されています。ここからは、いわゆる教科書的なことばかり書いても現実の医療の情報にはなりませんので、あまり詳しくは書きません。 なお、『あなたを守る子宮内膜症の本』ではかなりの頁をさいて解説していますし、実態調査で分かった日本の診断と治療の現実も数値で見ることができます。 2)子宮内膜症の診断医療におけるリスクは、まず、この診断から始まる可能性があります。適正で的確な診断がなされなければ、何も始まらないどころか、間違ったことが行われてしまう可能性も大きいのです。 <1>臨床診断と確定診断、問診
子宮内膜症は、手術をしてはじめて確定診断ができる病気で、手術以外で内膜症であろうと推定することを臨床診断といいます。確定診断である手術は、のぞくだけではなく、同時に治療も兼ねて行います。 「問診」はとても大切な診断時間ですが、これを軽視する医療者が多いのはとても問題です。受診する前に、自分の症状の経過、受けてきた医療の経過などをメモしておくとお互いに有効です。2~3カ月分の基礎体温表があれば役立ちます。きちんとグラフにしていなくても、だいたいの月経周期の状況はまとめておきましょう。どんな時期に、どんな痛みや不快症状が、どの程度あるのかなどです。 「外診」は全身を診ることですが、必要性を説く医療者は多いのにほとんど行われていません。 「内診」は必須検査です。確定診断されていない女性に、内診もせずに子宮内膜症保険適応薬を処方しようとしたら、断りましょう。 内診と直腸診には誰でも大なり小なりの抵抗感がありますが、子宮内膜症の場合はとても重要な診断です。ゆっくりした呼吸をしながら、からだを緩めるような意識をもつと楽になります。おしり、腰、背中全体をベッドにピッタリつけるようにし、腟がやや上向きになるようにした方が楽でしょう。羞恥心が強いと腟を下向きにしたくなるものですが、そうすると反っくり返ったような姿勢になり、からだが堅くなってかえって痛みを感じるようです。 「超音波エコー」は、医療者と一緒に画像を見ながら説明を聞きましょう。子宮内膜症の場合、腟に棒状の器具を差し込む経腟タイプがほとんどで、お腹の上から診る経腹タイプの診断程度は低いです。超音波エコーで判定できる子宮内膜症は、卵巣チョコレート嚢胞、と大きくなった子宮腺筋症だけです。それでも、それが分からない医療者、他の卵巣腫瘍や筋腫と間違う医療者もいます。 「血液検査:腫瘍マーカー」は、ほぼ半分くらいの診断率しかありません。子宮内膜症があっても出たり出なかったり、子宮内膜症がなくても月経の頃は100を超えたりします。この腫瘍マーカーは、何らかの治療をした時に、その前後で計って治療効果を診るものです。数値そのものより、変化を診る検査です。 「MRIとCT」の比較をすると、子宮内膜症全般には圧倒的にMRIの方が有効ですが、がんとの区別をつけたほうがいい場合は、CTも必要になります。どちらにしても、5mm以下の病変は撮れませんので、腹膜病変や深在性病変は分かりません。また、癒着も分かりませんが、明らかな臓器の位置関係の異常が見られれば、癒着が予想されます。MRIは、20~30分ほど機械の中でじっとしていなければならないことが苦痛ですが、明らかなリスクは言われていません。CTは、放射線に被爆するリスクがあります。 <2>診断の問題臨床診断の診断精度は60~70%だろうと言われていますが、もちろん、医療者によってかなり上下します。超音波エコー、MRI、CTなどの画像診断は、医療者の技術や経験によって読影力に幅がありますし、誰もが行う内診でさえ、子宮内膜症では診断力に大きな差があります。子宮内膜症の症状を効果的に改善するための治療に結びつく、的確な臨床診断のできる医療者が、少なすぎます。例えば、卵巣チョコレート嚢胞だけ見つけて、それを薬物やアルコール固定で一時的に処置しても、それだけしかないというケースの方がめったにないので、治療として十分ではないことが多いのです。 診断があいまいだということは、そこから先の医療が危ういということではないでしょうか。日本では、臨床診断だけで保険適応治療薬が処方されることがとても多いのですが、ひょっとしたら、臨床診断の1/3は子宮内膜症ではない人かもしれません。欧米では、確定診断もなく強い治療薬を使うことはほとんどなく、臨床診断の段階で出されるのは低用量ピルや黄体ホルモンくらいです。医療者も患者も薬にあまい、薬天国日本です。 確定診断とは、厳密に言うと手術と組織診断のセットです。 腹腔鏡では、同時に治療手術も加えることが多いですが、全くのぞいただけだったというケースも時々聞きます。治療手術をせずにのぞくだけとは、全身麻酔をして腹腔鏡をした意味がありません。開腹では、開けて何もしないということはないでしょう。 欧米では、腹腔鏡を使った診断がよく行われていて、それが同時に第1治療にもなります。 98年のアメリカの子宮内膜症協会会員データでは、確定診断が96%もあり、その82%が腹腔鏡でしたが、96年のJEMAデータでは、確定診断が46%で、腹腔鏡は18%でした。
97年厚生省研究班データでは、確定診断は約1/4しかなく、腹腔鏡は12%でした。 3)子宮内膜症の治療<1>治療のメニュー
*保険が使える病院とそうでない病院がある
**保険適応はなく自費診療(漢方の生薬でも工夫して保険診療する医師も少しいる) ***デェファストンには子宮内膜症の保険適応がある。他の薬は月経困難症や月経機能異常など保険適応で使える 『あなたを守る子宮内膜症の本』には詳細に解説している
治療のことを「メニュー」と書いた意味は、的確な診断のあと、どんな治療をいつ受けるか受けないかは、医療者の詳細な説明と助言をもとに、患者が選択することが理想だからです。なぜなら、子宮内膜症は慢性疾患ですから、それをもつ女性の長い人生を考えた計画でなければ、その場しのぎになってしまうのです。そのためには、十分過ぎるほどの情報が必要ですが、医療現場において医療者が出す情報はあまりにも少なすぎますので、今は、JEMAの情報を活用して下さい。 <2>治療を選択する場合の最重要ポイント子宮内膜症の治療メニューはたくさんありますが、医学的に再発の時間を最もかせぐことができるのは的確な保存手術(腹腔鏡がのぞましい)であり、欧米の医療では腹腔鏡下手術(兼診断)が薬物治療より以前の第1選択です。 薬物治療は何をどう使っても、子宮内膜症を短期に一時的に緩和するだけです(薬剤を使って排卵を止めている期間と、終了後に排卵が戻ってくるまでの期間)。それは、医学的に当然の結論であり、医療的(臨床的)にも世界中でとっくに証明済みのことです。しかし、日本の医療では(特に20世紀)、ほとんどの人がまず強い薬物治療を受け(確定診断のない状態で)、それを繰り返して何年も過ごしてしまい、どうしようもなくなってきた場合に手術を受けてきました(開腹が多い)。そして、結局、お腹の中の状況が進み過ぎており(癒着)、効果的な手術ができなかった(癒着がはがせず、その奥にある腹膜病変を処置できない)という状況におちいっています。 インフォームドコンセントが叫ばれて随分と久しいのに、薬物治療はかなり短期(治療後4~5ヶ月)の効果しかないという最も重要な情報は、つい最近までほとんど与えられることはありませんでした。このことを医療者の一部が公言するようになったのは、JEMAが94年に設立され、マスコミの取材に応じてハッキリした発言を繰り返し続け、2年ほどたってからのことです。 <3>JEMAが99年に発表した薬物治療の改善点、低用量ピル1999年1月の「大宮エンドメトリオーシス研究会」で、JEMAは、「低用量ピル」を子宮内膜症の治療薬として使っていくことと、「ダナゾールの低用量長期治療」や「局所治療」と、「GnRHaのアドバック治療」の研究を進めることを訴えました。同時に、98年秋から99年冬にかけては、低用量ピルの導入にあたって政治家や他団体と連盟し、厚生省に交渉をしました。その結果、低用量ピルは避妊薬として、99年6月に正式承認となり、9月から解禁になりました(保険適応はなし)。
偽妊娠療法(ピル)でも偽閉経療法のGnRHa(スプレキュア、ナサニール、リユープリン、ゾラデックス)でも、子宮内膜症への作用は同じことで、どちらも排卵が止まることで、病気を緩和しようとするものです(ピルの場合は4週間に1回少量の消退出血はあるが、自分のホルモンが動いて起こす月経とは違う)。薬物療法だけで治ることはないわけですから、より作用と副作用がマイルドな薬剤から使っていくのは当然です。実際、アメリカの子宮内膜症協会のデータでは、確定診断(腹腔鏡が大半)の後に再発してきた時の第1選択薬剤ですら、やはり低容量ピル(74%)でした。世界中の子宮内膜症の女性が20年も30年も前から使っている低用量ピルを、日本の子宮内膜症の女性が全く使えなかったことは、大きな不幸だったとしか言いようがありません。 ダナゾールとGnRHaは非常に強い薬であるため、添付文書には、6カ月以上の使用の安全性はないと書かれるようになりました。いっぽう低用量ピルは、年単位の連続使用ができ、副作用はこれらの薬よりはるかに軽く(というよりこれらの薬のほうが重すぎる)、費用も自費であっても圧倒的に安いのです(6ヶ月分の医療費は、最高のリュープリンで約36万円の保険払い、最低は低用量ピルで約1.5~1.8万円)。中用量ピルの中のドオルトンとプラノバールには昔から子宮内膜症保険適応がありますが、子宮内膜症にとっては含まれるエストロゲンが多過ぎ、逆によくないのではないかという専門医の意見もあります。 <4>薬物治療の副作用「ダナゾール(ボンゾール)」はステロイド剤ですから、血栓症が最も危険な副作用で、警告扱いですが、中用量ピル(ソフィアA,ドオルトンなど)での血栓症の発生率より低そうです。また、飲み薬ですから、肝機能異常が起こりやすく、男性ホルモンに似た作用があるので、タンパク同化作用として体重が増えやすく、にきびも出やすいです。まれに、声が低音になって戻らないことがありますので、気づいた時点でやめましょう。通常の量で4ヶ月以上続けてはいけません。
「GnRHa剤(スプレキュア、ナサニール、リュープリン、ゾラデックス)」は、非常に強力な作用で閉経状態にしてしまいますので、卵巣機能低下による、いわゆる更年期様症状がほとんど出ます。特に、骨量の低下がよく起こり、半年後には5~6%も下がる薬もあり、回復は人によって差があります(20歳前後までは体の成長途中なので骨への影響はひどくなりがちです)。また、血管にコレステロールが溜まりやすくなり、血圧も上がりやすくなります。うつが出ることも多く、これらが使用後も残ってしまっている人もいます。また、最初の1~3週間には、フレアーアップといって病気を進める可能性のある期間があります。通常の量で6ヶ月以上続けてはいけません。 「低用量ピル」もステロイド剤ですが、中用量ピルの血栓症の発生率を4分の1程度に抑えています。最初に吐き気や頭痛が起こりやすいですが、慣れればたいてい収まります。乳房が張ってくることもあります。体重はほとんど増えません。副作用ではありませんが、3週間使って1週間休む間に(偽薬で飲み続けるよう工夫されているものもある)、少量の消退出血があり、通常の月経よりずっと少ないですが(減少程度は低用量ピルの種類でかなり違い、オーソM21がもっとも減少する)、不要の子宮内膜を落とします(出血量にみあった下腹痛のでる人もいます。これを避けたければ休薬せずに数パックを連続使用してもかまいません)。 <5>手術治療日本の手術治療はまだ開腹の方が多いですが、お腹を10~13センチほども切るのは、医学的には保存手術としては望ましくありません。腹腔鏡下手術が侵襲性が低くていいのですが、医療的には日本の技術はまだ浅く、どこでもいいわけではありません。薬はどの医療者が投与しても同じ作用ですが、手術は開腹でも腹腔鏡でもどの医療者が行うかで驚くほど違うのです。
手術療法は、どうしようもなくなった時に最終的に受けるのではなく、医学的には診断として受けるもの、最初の的確な治療として受けるもの、再発したときにもまた受けるものですが、こういう医学的に言えることと、日本の医療の現実はあまりにも差があり過ぎて、ここに詳しく書くことはできません。 <6>不妊医療との関係子宮内膜症と不妊は難しい関係です。子宮内膜症の人の半分近くに不妊状態があり、不妊の人の半分近くに子宮内膜症があります。どちらが原因で結果なのかという関係はいまだ不明です。ただ、一般的には不妊の人は1割ですので、多いことは事実です。
さて、不妊医療の中で行われる積極的な不妊治療、特に、注射タイプの排卵誘発は、子宮内膜症を悪化させる可能性が大きいです。また、手術は開腹でも腹腔鏡でも、病状によって、医療者の技術によって、卵巣の機能低下や新たな癒着による問題をつくる可能性があります。不妊状態と子宮内膜症を両方抱えている人は、慎重に医療を選択する必要があります。 <7>漢方薬漢方薬や鍼灸などは西洋医学と比較して東洋医学と呼ばれ、中医学や和漢診療医学などに分かれますが、共通していることは、この病気にはこれというような処方がある医学医療ではないことです。むしろ、その人の体質や生活をよく診断し、全身的な状態をよくしていく、つまり、不足過ぎる部分はプラスに、過剰すぎる部分はマイナスにというように、その人にあった心身のバランスを調整する医療です。 この分野も、医療者や治療師によって力の幅が大きいようです。漢方薬には、エキス剤と生薬の違いもありますし、生薬も処方によって随分違うようです。 JEMAがもつこの分野の情報は、JEMAが西洋医学で収集している日本で最大最良の情報と比べるとまだまだ少ないものであることは、ご承知下さい。それでも、『あなたを守る子宮内膜症の本』にはきちんと解説していますし、大規模実態調査の調査項目に入れましたので、活用の実態や効果を数値で見ることができます。
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